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zoom RSS 何かしらの違和感…『日本沈没・第二部』

<<   作成日時 : 2006/09/09 01:44   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 1 / コメント 8

ようやく消化した、というか、違和感の正体に気付いた、というか。
勿論SFですし、他作品に通じる結末になっているので(後述)
政治的な背景抜きに楽しめる上、色々と考えさせられるテーマではありますが、実はその「違和感」は、親王殿下のご誕生という慶事をもって気付かされたものです。
今回、記事が大変長くなっちゃいました。
また、ネタバレすぎ注意!なので、あらかじめお断りしておきます^^;

『日本沈没 第二部』(小松左京+谷甲州)

■本はこんな雰囲気■
前作から33年、物語の背景はより現実の情勢に沿ったものとなっています。
実は竹島問題までが登場しますが、それよりも強烈なのが中国と日本の衝突。
中国が日本海へダイレクトに進出する為に、人道的支援の名の下に北朝鮮へ侵攻する件は、近年中に現実に起こってもおかしくない臨場感です。
また、そういった事態の調査において、国連難民高等弁務官事務所の職員が直面するであろう困難と政治的な駆け引きは、逆にそこだけ抜き出して独立した話にしても面白いなと思いました。

また、今回の続編は、小松左京氏の体力的な問題もあるとのことで、プロジェクトチームの形を採り、実際の執筆を谷甲州氏が担当しているので、文章の雰囲気は変わっています。
ディテールを細かく書き込んでいく小松氏の文章に対し、谷氏の文章は「映像的」で、より現代的(と言ってしまっていいのか…^^;)になっていると感じました。

■考えさせられる国土と国■
物語の中で、日本人はある日を境に物理的な社会・経済・産業の基盤をいっぺんに失います。しかし、第一部で海外にあらかじめ避難させていた国の資産や、国が消滅してもなお保持し続けているMade in Japanブランドの技術競争力が、他国へ入植する国民を助けます。
入植先での開発の描写は、国際協力事業で活動していた谷氏の経験が存分に活かされており、細部に渡ってとても活き活きと描かれています。
私は読んでいてそういった活動や仕事を魅力的に感じたのですが、そこで改めて気付かされたのです。物語の中の人達には、「帰る国がない」ということを。

また国土を失い、日本人難民受け入れ先となった各国の入植地に分散することで、「日本政府」は存続していても一つにまとまった「社会の共通性」というものが徐々に失われていきます。沈没と脱出を経験した入植1世は、失われた国土に対し郷愁の念を抱きますが、入植地で生まれ育った2世以降、徐々に現地へと順応していきます。
2世以降の世代は現地と日本人難民社会をつなぐパイプとして重要な役割を持ちます。ですが、それは同時に「日本の社会的文化」が失われていくことに他なりません。
また、文化を取り戻そうにも形が残っていないことでより観念的になっていき、それは人によって記憶が様々であることから、やはり変質し失われていってしまう。

拠り所というのは、これまで「精神的なもの」だと思ってきましたが、それは「形」が存在するからだということに気付かされました。
文化において、「目に見えるもの」と「目に見えないもの」は、互いに補完し合って一つの価値観を形成するということを考えさせられます。

■「豊かな難民」という不思議な構図■
入植地描写で秀逸だったのが、「日本は難民でありながら、豊かである」ことが招く、受入国との軋轢です。
それは入植地の開拓が進み、生活が安定するにつれて、受入国との格差を生みます。
フェンスに囲まれた内側の入植地は豊かで、外側は貧しい。フェンスを海、そこを守る警備員を国境警備と考えると、現実世界での危機的状況と被ります。

物語の中で日本人難民が採る方法は、実に日本的。
根本解決を目指すことができず、とりあえずの生活を守る為の「問題の緩和」に留まるあたり、今の日本の外交そのままです。
帰る国のない難民であれば、受入国との軋轢は何万人もの入植者が路頭に迷う事態にもなりかねませんから、非常にデリケートな問題ですね。引き比べると、現実世界で確固とした国土を保持しながら、一体今の日本は何を遠慮しているのかと苦笑する部分もあり…。

そして、物語を次のステップへと推し進める、地球規模の気候の異変。
ただでさえ格差に不平等感を深める受入国社会や環境団体は、「日本の開拓のせいで気候が変動している」という不満の転嫁を強めます。
そこでキーツールとなるのが、地球シミュレータ。
本を読んだ後、TVの特集番組で見てびっくりしました。実在するんですね。

【地球シミュレータセンター】
http://www.es.jamstec.go.jp/esc/jp/index.html

この海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、夏に公開されたリメイク版映画でも協力しています。
また、映画に取り入れられた新技術や前作以降の研究成果を、第二部では「異変(日本列島沈没)後に解析された結果」として、そこから全世界規模の災厄へと発展させていきます。
この辺りの構成が、発表年代がこれだけ開いているにも関わらず、事象に一貫性を持たせていて見事です。

是非とも複雑な問題を精緻に描き込んだディテールを、
色々な方に実際に読んで“体験”して頂きたいですね。

■違和感の素■
で、今回の記事で冒頭に書いた「違和感」なんですけど…。

上でご紹介してきた通り『日本沈没』は、第一部で物理的な「国」が徐々に機能を停止し、第二部ではその機能を取り戻そうとしながらも精神的な「国の概念」が徐々に失われていく物語です。

その中で、「皇室」が出てこないんですね。

第一部でも、夏に公開されたリメイク版でも、実際の描写はありませんでしたが、確か天皇陛下をはじめ皇族方はスイスに脱出していました。
そして、第二部ではその後に触れられていません。

もっとも、全世界が「国」という垣根を取り払うことと、エクソダス的な結末を描いていることから、描きようがなかったのかも知れません。

これは、読んだ人によって色々な解釈があると思いますが…

ねこねこは、「文化の喪失」を描くという点で、非常に重要な要素になると思ったのですが、さすがにそこまでは書けなかったのカモなぁと。

しかし、小松左京氏の他作品『果てしなき流れの果てに』のパラレルワールドで登場した、カルト宗教化した「日本人の末裔」へと繋がっていくことを髣髴とさせる終章の描写。
その宗教の背景として考える時、「消滅した国土への信仰」だけではなく、やはり文化の集約としての「皇室」の存在は欠かせないのではないかと。

そんな違和感があり…。
読後感は、ちょっぴり消化不良となったのでした。
読んだ直後は後半の畳み掛けるようなテンポに圧倒されて、
「一体この不足感はなんだろ?」
という感じだったのですけどね。
もう一度読み直して、やっと分かりました^^;


ここまで辛抱強くお読みくださった皆様、
長々とお付き合い下さいまして、ありがとうございました。
日本沈没 第二部

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見てみたい映画!『日本以外全部沈没』
あのォ〜、念のために書いておきますけど、『日本沈没』じゃないですよ。『日本以外全部沈没』です。原作はあの有名な『筒井康隆』氏。筒井氏が、日本沈没が書かれ、映画となった1973年に発表した短編小説が原作なんですよね。Wikipedia『日本以外全部沈没』によると、>日... ...続きを見る
慶文堂 ひま人日記
2006/09/09 11:19

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
『帰る国がない』状況におかれる日本人・・・それが前作でのメインテーマの一つでしたね。そして実際にそうなってしまった日本人・・・これがこの第二篇のテーマなんでしょうね。
でも途中まで読んでいて、(この状況は在日コリアンとも通じるものがあるんじゃないか)と思ってしまいました。
物語の中では『祖国そのものが消失してまう』日本人、そして『祖国から差別?(棄てられた?)される』在日コリアン。
入植先で『日本人』として生きる彼らと、日本国内で『韓国人』として生きている在日コリアン。ねこねこさんの文章を読んだ限りでは、入植した日本人は、入植先の一部に『日本』を再現・維持して生活しているらしい。その点が在日コリアンとは違いますが、でも2世・3世の問題となると、彼らと相通ずるような気がします。
是非とも読んでみたいですねェ。

皇室に関しては、小松左京氏および谷甲州氏の間で意見の統一が為されなかったのではないでしょうか?なんとなくそんな気がします。
彦勘助
URL
2006/09/09 11:12
ねこねこさんが『日本沈没・第二部』を記事にするんだったら、私も今日のネタは別のにしたのに・・・_| ̄|〇ガックシ
彦勘助
URL
2006/09/09 11:20
>彦さん
『日本以外全部沈没』は、私も見たいと思ってます。パロディを超えたパロディと言いますか…^^;

第二部の中で、首相と外相が、まさにそのテーマでぶつかるシーンもあります。首相は失われた国土を人工的に復活させたいと思い(メガフロート計画というのが出てきます)、外相はそれぞれの入植地で同化していくことを是とするんですよ。外相の考え方は、以前別記事で紹介した戦前のアメリカへの日本人移民が目指したものと同じなんですよね。

これは、祖国を離れて世代を重ねる集団が必ず直面する選択肢だと思います。また民族的な問題として考えると、「こうすべきだ」と集約できる答えもない問いなんですよね。
とても考えさせられるテーマでした。

皇室が出てこなかったのは、確かにそうかも。私もそんな気がします。…というか、書きようがなかったんだろうなぁと。
ねこねこ
2006/09/10 14:49
面白かったです。
1 国家の三要素として、一般に主権、領土、国民があげられますが、領土がないと文化すら継承されないということか。
2 読んでもいないであれなんですが、ネットでバーチャルな国家機能をはたすことは考えられるかもしれません。
tesa
2006/09/11 08:28
第二部を買って、映画を見て、原作上巻を読んで・・・まで来ました。下巻を読んだら第二部へと思っていたんですが、見つからない。どこかにあるはずなのに・・・。
子供の頃買ったはいいけど挫折してたんです。
昔の教科書とどこかに埋もれてるんでしょうか。諦めて文庫本買おうかな。
みなさんに早く追いつかねば。

バーチャル国家面白そうですね。
与野党支持者も無党派層も多いですから
眠り姫
2006/09/11 10:21
>tesaさん
ありがとうございます^^
よく言う「土着の〜」とか「風土」といったものに根ざす習慣や習俗というのは、やはり大きく見た「その国の文化」と切っても切れないものなのでしょう。
本の中でも、交渉ごとにまつわる習慣だとか、非常に身近な部分でその土地に合わせなければ立ち行かない様子が象徴的に書かれていました。
やがて、違った習慣に馴染んだことが全体への雰囲気として影響し…といった感じです。

バーチャル国家、興味深いですね。
本の中でも、「日本政府」は極限まで縮小されて必要最小限の規模で存続している状況で、世界各地の入植地のプラン、インフラ整備、福利厚生を「統括する機能のみ」担ってましたから。
「究極の小さな政府」とは、バーチャルで稼動できる規模、につながるのかもしれません。
ねこねこ
2006/09/12 20:55
>tesaさん
ありがとうございます^^
よく言う「土着の〜」とか「風土」といったものに根ざす習慣や習俗というのは、やはり大きく見た「その国の文化」と切っても切れないものなのでしょう。
本の中でも、交渉ごとにまつわる習慣だとか、非常に身近な部分でその土地に合わせなければ立ち行かない様子が象徴的に書かれていました。
やがて、違った習慣に馴染んだことが全体への雰囲気として影響し…といった感じです。

バーチャル国家、興味深いですね。
本の中でも、「日本政府」は極限まで縮小されて必要最小限の規模で存続している状況で、世界各地の入植地のプラン、インフラ整備、福利厚生を「統括する機能のみ」担ってましたから、ネットワークの安全性さえ確保できればそういう形に話が発展する方向性もあったのかも(実際には世界の国を再編成する方へ飛躍してしまいますが^^;)

リアルでも「究極の小さな政府」とは、バーチャルで稼動できる規模である、という方向性もあったりして。
ねこねこ
2006/09/12 20:59
>眠り姫さん
それは消化不良ですね^^;
1作目なら、ユーズドであるかも知れませんよ。

やっぱり、1作目で沈没をしみじみ味わってから第二部に移ったほうが、感慨深いカモ。
ねこねこ
2006/09/12 21:02

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